壬生界隈
幕末の文久三年(1863)春、十四代将軍徳川家茂の上洛にあたり、
清河八郎率いる浪士組もその警護の為に上洛した。その宿舎として使われたのが洛西壬生村の八木家の屋敷であった。
ほどなく清河ら浪士組は、在京二十日日あまりで江戸に呼び返されてしまった。
しかし、八木家に宿泊していた芹澤鴨の水戸派、近藤勇の試衛館組の十三名は京に残り、新選組の前身となる
「壬生浪士組」を結成した。その後、京都守護職松平容保の御領となり、京で跋扈する攘夷倒幕派浪士達の取締りと
市中警護を目的とする新選組が生まれたのであった。
以後、次第に隊士は増え、八木家だけでは隊士を収容しきれなくなり、同じく壬生村の前川家・南部家も
宿所に当てられるようになった。
文久三年の秋、近藤派は芹澤派を粛清、近藤勇を局長、山南敬助を総長、土方歳三を副長、
沖田総司・原田佐之助・井上源三郎・永倉新八らを助勤とする体制が成立した。慶応三年(1867)、
徳川慶喜が大政奉還したのちに起った鳥羽・伏見の戦いで敗戦するまで京都を舞台に活躍、なかでも池田屋の変は
新撰組の名を歴史に刻み込む大事件であった。
新撰組が最初の宿所とした八木家は、壬生村きっての旧家でかつて壬生郷士の長老をつとめていた。
現在、その建物は京都市指定有形文化財に指定され、
玄関の幕には「三つ盛木瓜」の紋が据えられている。「三つ盛木瓜」といえば、
越前の戦国大名朝倉氏のものが有名である。そもそも、
八木家も朝倉家も但馬から出た家で、古代但馬地方に勢力をもっていた日下部氏の後裔で同族の関係であった。
なにげなくみえる家紋にも家の歴史が刻まれており、なかなかゆかしいものである。
・写真:八木家住宅
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八木邸の前にある前川家も壬生郷士だった家で、立派な長屋門は往時のままを伝えているという。
元治二年(1865)、総長の山南敬介は「江戸へ行く」と置き手紙を残して新選組を脱走。
隊規にてらされて切腹を命じられ前川家の一室で切腹して果てた。そのとき、
山南が馴染みにしていた島原の明里が駆けつけ、今生の別れをした話は新撰組悲話として有名なものである。
しかし、最近の研究により「新撰組始末記」の創作であろうとされている。
山南敬介は剣も使え、学識もあり、なによりも心優しく温厚な性格で、壬生の人々や隊士などから慕われた
と伝えられている。しかし、そのインテリ体質が人としての弱さともなり、武闘派の色合いを濃くする
新撰組の体質を忌避するようになったのではなかろうか。
近藤や土方にしても、山南の存在は
新撰組において中途半端な存在に映るようになっていったのであろう。山南が芹澤ほどではなくても
もう少し押し出しのある人物であれば、新撰組も一味誓った集団になっていたように思われるがいかがだろう。
・写真:前川家住宅
山南敬助と明里が別れをした格子窓は、その後取り払われて無くなったらしいが、
長屋門の並びについている格子の出窓は山南と明里の別れのシーンを彷彿とさせる佇まいである。
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壬生といえば壬生狂言で知られる壬生寺である。
子供好きだった沖田総司が境内で近所の子供達と遊んでいたという話は有名だ。
また、近藤勇をはじめ隊士が壬生狂言を観賞したり、
新選組が相撲興行を壬生寺で企画したなどの逸話も残っている。
一方、新撰組は大砲の撃ち方や鉄砲の扱い方、集団での演習を境内で行ったことから
壬生寺に屯所があったと勘違いしている人も多いようだ。新撰組の行動に
迷惑をこうむった寺側は、朝廷に嘆願書を提出して演習の中止を求めたという。
戦線組を描いた小説としては子母澤寛氏、司馬遼太郎氏らの小説が知られるが、
最近では浅田次郎氏の「壬生義士伝」が出色のものでベストセラーとなり映画化もされた。
主人公の南部脱藩浪士吉村貫一郎が、故郷に残してきた子供たちを思って、壬生寺の境内で
近所の子供たちと遊ぶ一節が小説にあった。吉村貫一郎は浅田氏が創造した人物かと思っていたら、
小説の内容はともかくとして実在の人物だそうで驚いた。
小説における貫一郎の口癖である「おもさげながんす(申し訳ない)」が、なんとも哀しく、
いい味わいを醸しだしていた。そして、鳥羽・伏見の戦いにおいて、
徳川の殿軍ば お努め申っす
一天万乗の天皇様に 弓引くつもりはござらねども
拙者は義のために 戦わねばなり申さん、
お相手いたす
といって薩摩軍に切り込んでいくところは名場面であった。なにが義で
なにが不義なのか、くるくると変化する幕末の政治情勢、
それが行き着いた結果の戦いにおける貫一郎の言葉は実に清清しいものがあった。
・写真:壬生寺
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戦場を疾駆する戦国武将の旗印には、家の紋が据えられていた。
その紋には、どのような由来があったのだろうか…!?。
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