摂津池田から綾部に通じる国道173号線が、福井交差点を南丹方面に右折すると左手に雨石山・櫃ヶ嶽の山並みが見える。
雨石山と相対するように右手前方に見える小高い山が「モロケ谷の頭」である。「モロケ」とは不思議な名だが、
伝によれば南西山麓にある三熊の人が自分の土地を中村の人に「やろけ」と言ったら、
中村の人が「おう、もろけ」と言ったことから付いたものという。なんとも牧歌的な、おおらかな由来ではある。
登山コースとしては、モロケ谷の頭の南側を三熊と市野々を結ぶ山道(破線)の峠(三熊峠)より北に伸びる尾根をたどるのが
もっとも分かりやすそうである。
今回は、中村の南に取り付き場所を探したところ、獣除の柵の向うに続く谷筋の道を発見した。谷川に沿った道は非常に明確で、
途中より鉄塔への巡視路も分岐している。二番目の巡視路を登っていくと尾根筋へ、尾根には北方向に明快な道が登っている。
しばらく登ると、西方に八ヶ尾山・豊林寺山、南方面には完成間もないみくまりダムが見下ろせる。今回、唯一のビューポイントであった。
鉄塔を通過しひたすら登っていく、山道にはNHKの黄色いポールが埋設され迷うことはない。
やがて、道は急斜面となりNHKのアンテナ施設に到着、さらに登った山上の広場に三等三角点はあった。
周囲は樹木に覆われて展望はない、なぜかビールケースが一つ転がっているのが印象的であった。
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下山は山頂より西方に伸びる尾根を選択、一部迷いやすいところもあったが、無事、取り付き地点の獣柵に下りつくことができた。
中村を歩いていると、Y家の外壁に「菊に雁」の紋を発見する。
モロケ谷の頭を含めた福井界隈はかつて大芋荘とよばれる荘園だったところで、中世には大芋衆とよばれる小武士団が割拠し
八上城主波多野氏に属した歴史を有している。室町時代の家紋集『見聞諸家紋』には、丹波大芋氏の「雁に菊水」紋が
収録されており、Y家の家紋はそれに由来するものかと興奮する。あとで調べたところ『丹波志』にY家の記述があり、すでに
江戸時代に「菊に雁」紋を用いてたとあった。このような中世より紡がれた歴史に出会えるのも、丹波の山歩きのえがたい魅力である。
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